千と千尋の神隠し

この映画は、日本で未だにこの作品の興行収入を超えたものはない(※2020年当時)という、宮崎アニメの代表作ともいえる作品で、ジブリ作品にあまり関心がない人でも、多くの方が知っていると思います。

私自身も、今から約20年前、この作品が映画館で初めて上映された時に見に行きました。実はジブリ作品を映画館で見るのは、この時が初めてでしたが、その繊細な映像や宮崎アニメ独特の世界観に引き込まれました。

ただ見終わったあと、あの世界は結局何を表していたんだろう、単なる神々の世界なのか、また、あのハクとは一体誰なんだ、千尋を助けるただのヒーローなのか?という疑問は、ずっと残っていました。

それから約20年、そんな疑問もほとんど忘れかけていましたが、たまたま見ていたYouTubeで、岡田斗司夫の動画を見つけ、興味半分で見始めたのですが、その綿密な調査による解説の一つ一つに圧倒され、引き込まれてしまいました。

そして動画を見ていくうちに、映画の中の一コマ一コマ、そして登場人物のそれぞれに、最初に見た時には気付かなかった深い設定がある事を知り、とても驚きました。

この動画では、これらの設定について「千と千尋の神隠しを読み解く13の謎」と題して、映画の絵コンテや宮崎駿自身が書いたこと、語ってきたことを、丁寧に調べ上げたうえで、一つ一つ解説していました。

「不思議な世界の謎」から始まり、「湯婆婆の謎」「油屋の謎」などを解説しながら「カオナシの謎」「ハクの謎」といった深層に迫り、最後に「両親の謎」へと向かって行きます。

更にここで、少しだけ種明かしをすると、この作品のテーマが、あの宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」のテーマに繋がっているとは、全く予想していませんでした。

ではそれは、作品を何度も見返すことによって分かることなんでしょうか。いや、何度見返したところで、決して分かることはないでしょう。宮崎駿自身がそのようなヒントは絶対見えないようにしているからです。しかし、この作品の中で宮崎駿が伝えたかったことは、「銀河鉄道の夜」に貫かれているテーマ以外の何物でもないのです。

それはエンディングに使われている映像を見ても分かるのですが、最初に予定されていたエンディング映像は、成長した千尋への労いとエールを表す花束のシーンで終わる予定でしたが、宮崎駿は敢えてそれを違う映像にしました。

その理由は、この作品を通して宮崎駿が最も伝えたかったことは、エンディングで流れている映像に深く繋がっているテーマ以外の何物でもないからでした。しかし、その本当の意味を知ることが出来るのは、映画を見た人の中に何人いることでしょうか。自分も含め、それに気付いた人はほとんどいないと言って良いでしょう。

結局、宮崎駿は、自分の本当に言いたい事は、伝わる人にだけ伝わればいい、と思っているのでしょう。伝わらない人に無理に伝えようとする必要はない、分かる人だけ分かればいいんだ、と。

しかし、宮崎駿自身がそのように考えていたにも関わらず、宮崎駿の伝えたかったテーマは、映像を通して、見る人の心に、無意識のうちに伝わり、その人の心を動かし、それが結果的に日本市場でいまだに破られていない興行成績に繋がったと言えるのかもしれません。

だとしたら、やはり、宮崎駿の映像の力は凄いとしか、言いようがありませんね。

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